ベル神と竜の伝説

「エジプト・アッシリヤ・バビロン�~話と傳說」(中島孤島編、昭和拾年)から「ベル�~と龍の傳說 」を抜き出してみました

この話は旧約聖書外典LXXセプトゥアギンタ(ギリシャ語70人訳)の「ベルと竜」と同じです(☞をクリックするとLXX外典逐語訳が開きます)

☞LXX外典ベルと竜

ベル�~と龍の傳說

古く舊約聖書のうちに混入してゐた、次の傳說は、ベル�~がバビロンで、どんな風に崇拜されてゐたかといふ樣子を示してゐます。

バビロニヤ人はベル�~の偶像の前に、大桝に十二杯の上等の麥粉と、四十頭の羊 と、六つの器に盛つた葡萄酒を供へてゐた。

ペルシヤのキルス(Cyrus) 王は、バビロニヤ王國を滅ぼした後、屡、べル�~の�~殿に參詣したが、ある時のこと、豫言者のダニエル (Daniel)に向つて、

『何故私と同じやうにベル�~を信仰せぬのか?』 と、訊ねました。

するとダニエルは、 『私は偶像なぞは信仰しない、それよりも天地を創造した生きた�~を信仰するのです』と答へました。

『お前は、ベル�~が生きた�~だといふ事を、知らないのか?

ベル�~が、毎日どんなに澤山食べたり飲 んだりするか知らないのか?』 と王は問ひました。

ダニエルは笑つて、答へました。

『お、大王樣。御冗談をおつしやつてはいけません。

ベル�~は外側が眞鍮で、内部が粘土で出來てゐるに過ぎないではございませんか。

それが何うして物を食べたり飲んだり致しませう』

シラス王は、非常に立腹して、すぐに�~官を呼んで、かう言ひました。

『さあ、毎日お供へするあの澤山の供物を、誰が食べるか、言つて見ろ。

言はなければ、お前を殺してしまふぞ。

しかしベル�~が召上るといふ事が分つたら、許してやらう。

その時には、ベル�~を冒瀆したダニエルを殺してやる』

ダニエルはかう聞くと、勿論この事に賛成しました。

この當時べル�~に仕へてゐる�~官といふものは、七十人餘りもをり、その�~官が又各妻子を持つてゐました。

ですから、犧牲が失くならなければ、むしろ不思議と言はなければならないのです。

キルス王と、ダニエルとは、ベル�~を祀つた�~殿へと行きました。

すると�~官達は、 『ベル�~に食物と飲料とをお供へ下さい、そして扉を固く閉めて、王樣の封をした印をおつけ下さい。

翌朝お出でになれば、�~樣が供へ物を全部召上つた事が、御合點參りませう』 と言ひました。

�~官達は�~殿の大食卓の下に、秘密の入口をつけておくのでした。

�~官達はいつもこの手で、�~前に捧げられたおいしい供物を、ベル脚に代つて頂戴するのでした。

しかし、この事は勿論誰にも隠してゐたのです。

キルス王は�~官達の言ふやうに、ベル�~の前に食物と飲料を供へました。

しかしダニエルは家僕に言 ひつけて、石灰を持つて來させると、王の見てみる前で、これを�~殿中に撤きちらしました。

さうしてお いてから戶を閉めると、王様の印をおして、封印をしたのでした。

夜になると、�~官達は大勢の妻子や家族達を連れて、秘密の拔道から�~殿の中へ入り込みました。

そし て見る中に御馳走を平げてしまひました。

翌朝キルス王とダニエルとは、�~殿へ行きました。

王は封印を取つて、戶を開けました。

と、供へ物が殘らずなくなつてをりました。

これを見た王は、大聲に呼び出しました。

『おゝ、ベル�~は偉大なものぢや

。あなた様について言はれてゐる事に、ちつとる誤りはない』

しかしダニエルは笑いながら、王の前へ立ちふさがつて、鋪石を指さすと、其處にごちゃごちゃに印された足跡が、はつきりと見えました。

するとキルス王は叫びました。

『足跡だ、男のも、女のも、子供のもある』

�~官達は、早速呼び出されました。

そして長い間の奸計が露見して、坏秘密の通路のあつたことがすつかリあらはれました。

キルス王は非常に怒つて、�~官達を斬罪に處してしまふと、ベル�~の�~殿は、ダニエルの手に任されました。

ダニエルは、早速偶像を破壊してしまひました。

�~殿の中には、またバビロニヤ人の崇拜してゐる龍が祀られてをりました。

王はこれを見ると、ダニエ ルに言ひました。

『お前は、これまた、真鍮だと言ふのか?

見るがいい。

生きてあるぞ。

物も食べるし、飲みるする。

だからお前は龍を信仰するがいい！』

しかしダニエルは頭を振つて、答へました。

『お許し下さい。

私は刀も棒もなしで、この龍を退治してお目にかけます』

ダニエルは瀝青と脂肪と髪の毛を一緒に煮立てゝ、大きな塊りを幾個も造へました。

これをダニエルは龍の口に置いたのです。

すると、龍は粉々に飛び散つてしまひました。

これを知つたバビロニヤの人々は非常に怒つて、ダニエルを渡して下さるやうにと、キルス王に詰め寄りました。

もし渡さなければ、王を殺して、王の物は殘らず壊してしまふと言ふのです。

キルス王は王位を奪はれることを恐れて、ダニエルを人民共に渡しました。

人々はダニエルを獅子の窟へ投げ入れて、六日の間そこに閉ち込めておきました。

穴の中には七匹の獅子がゐて、長い間食物を與へられずにゐましたから、何れも一層獰猛になつてゐました。

しかしダニエルは、決して獅子に傷けられることはありませんでした。

それどころか、天使がダニエルを 見て非常に同情しました。

そしてハッパクック(Habbacuc)といふ豫言者が、野良に働いてる人達に粥を持つて行くところを摑へて、

髪の毛を持つてぶら下げて、パレスタイン (Palestine)からバビロンまで連れて行つて、ダニエルの足もとへその粥をおかせました。

ダニエルはお粥を食べました。

ハッバクックは再び同 じやうにして、パレスタインまで連れ戻されました。

七日目になると、キルス王は穴の側へ來て、ダニエルの亡くなつた事を嘆き悲しみました。

ところが、ダニエルは、生きてゐるのでした。

これを見たキルス王は非常に驚きました。

そしてダニエルが信仰してゐる�~様を、自分もこの後信仰しようと決心して、ダニエルを穴へ投げ込ませた人々を捕へて、今度は反對に、その獅子の穴の中へ押し込みました。

すると、その人達は、忽ちの中に噛み殺されてしまひました。

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